きっかけ
素晴しい師との出会い
閉ざされた音大への道
リコーダー奏者として
Part 1〜お笑い編
Part 2〜怒り編
Part 3〜苦笑い編
リコーダーのこと
リコーダーの簡単なご紹介
リコーダーと「たてぶえ」



リコーダーというと一体どんな楽器だかわからないとおっしゃる方も多く、説明する際には便宜上「小学生がぴーひゃら吹いているあの『たてぶえ』と大体同じです」という風にするのですが、このような表現をすると大きな誤解を招きかねません。それでもわかりやすくするために、語弊があるとは知りつつも敢えてこのように説明しているだけなのであって、実はリコーダーとたてぶえは全く同じものではないのです。

◆リコーダーと「たてぶえ」の関係

そもそもリコーダーは主にルネサンス時代からバロック時代にかけて大活躍した、由緒あるれっきとした楽器であり、当時はヴァイオリンなどの花形楽器と肩を並べる存在でした。
それがたまたま発音機構がうまくできており、フルートやオーボエなどのようにまず音を出すのが難しい楽器と違って、誰でも息を吹き込みさえすればとりあえず音が鳴るという便利さ・取っ付きやすさが災いしてか、リコーダーはお馴染みのハモニカなどと同様に現代における教育用楽器のモデルとして選ばれてしまいます。そしてリコーダーを模倣した「たてぶえ」が教育用楽器として世の中に浸透していきました。つまり悪い言い方をすれば、「たてぶえ」とはリコーダーもどきなのであって、完全なリコーダーの再現ではないのです。しかし今ではもどきの方がずっと知名度も高く、一般にも浸透しているようです。


Jan Miense Molenaer,
Dutch, 1610-1668

◆リコーダーと「たてぶえ」の違い

1. 材質・生産過程
元来木製(中には象牙製のものもある)で職人によってひとつひとつ手間ひまかけて作られていたリコーダーが(もちろん現在でもそのような生産過程で作られている木製の楽器もたくさんありますが)、今では「たてぶえ」という名のもとにプラスチック製のものが大量生産されるようになり、誰もが簡単に安く手に入れることができるようになりました。
2. 音色
またリコーダーと「たてぶえ」は見ためはほぼ同じでも、木とプラスチックという素材の違い、オーダーメイドと量産の違い、などは当然音色にも明らかな相違をもたらします。
確かに大量生産とは言えども馬鹿にしたものではなく、技術の進歩と相俟って音程もそうそう悪くはないし、音色の方も改良されてきているようです。下手な木製の楽器よりはプラスチック製の方がずっとましという例も全くないわけではありませんが、いくら馬鹿にしたものではないと言ってみたところで、やはり経験を積んだ専門職人によるオーダーメイドのものにかなうわけはありません。木でできた楽器の持つ弾力性に富んだ温もりのある優しい響きは、プラスチックの硬質な音とは全く異なるものです。

◆「たてぶえ」の登場による利点と弊害

たてぶえの登場により大衆化が進み、誰もが簡単に楽器を手に入れられるようになり、「気軽に楽しめる」「取っ付きやすい」といった利点も多いことはもちろん認めましょう。
しかしそれによる弊害も見逃せない、というより残念なことに弊害の方がはるかに大きいという気がしてなりません。
つまりリコーダーは「芸術性に欠けている」「下らないおもちゃのような楽器だ」といった誤った認識がまかり通っているのです。それというのも「リコーダー→たてぶえ→おもちゃ」という図式が出来上がっていることに端を発しているのだとしか考えられません。そもそも「たてぶえ」という名称自体が馬鹿にしたくなるようなものだとは思いませんか。

しかし先にも述べたように、たとえ「たてぶえ」がおもちゃ的存在であったにしても、リコーダーそのものは歴史的背景と芸術性を持つれっきとした楽器なのです。一般における知名度が低いというだけならまだわかる気もしますが、レベルが低い楽器と誤解されているのには閉口したくもなります。



◆私の気持ち

以上のようにリコーダーと「たてぶえ」は似て非なるものです。だからと言って何もたてぶえの存在を否定しようというのではありませんし、たてぶえには教育用楽器としての立派な存在意義があります。ただ姿形があまりにも類似しており、そのため本来のリコーダーの地位が危機に曝されていると思うと、我慢できないのです。 
私としては多くの方々にこの2つの楽器の違いをしっかりと認識していただき、リコーダーとは芸術性を持ちながらも、同時に親しみやすさも持ち合わせた楽器であるということを広く伝えていきたいと思います。


◆おまけ・最近の動向

つい最近この教育用楽器の正式名称が「たてぶえ」からリコーダーへと変わったということです。つまり小学校や中学校の音楽の教科書の中でこれまで「たてぶえ」と表現されていたものを「リコーダー」に変えるという文部省からのお達しがようやく出たということなのです。何らかの形で教育にかかわったリコーダー奏者たちは、この「たてぶえ」という明らかにおもちゃ的な名称を何とかリコーダーに変えようとして、頭の固いお役人などを相手にそれは大変な苦労なさってきたようです。

たかが名前ひとつと言うなかれ。ある対象に対する認識というものは普段の呼び方ひとつで相当違ってくるものです。このことで「リコーダー→おもちゃ」という図式がなくなるといいのですが・・・

しかし仮に名前が変わったところで、いわゆるリコーダーとプラスチック製の教育用楽器との差が本質的に縮まるというわけではないはずです。名称が同じになったらなおさらのこと、本来のリコーダーの姿を知っていただき、その上で教育の場ではプラスチック製のものが便宜上使われているのだということを認識していただきたいものです。